初アルバイト!
奇妙なお茶会






K子さんの行動もむちゃむちゃ速い!
すぐさま予定表を取出し、 あっという間にお茶会の日程を決めてしまった。 大学休暇中の日曜日に、5人 x 4回だ。 店内に畳のスペースがあるので、そこでお茶をたてる。 5人分たてるのは結構つらいがまあできるだろう。

当日は快晴であった。ぽかぽかした陽気で、 待ちあいのお客さんも機嫌がよさそうだ。 なぜか季節はずれのこいのぼりがあげてある。 この際気にしないことにしよう・・・
ここでお客さんは、K子さんの夫デイーターさん(仮名) からひととおりの作法の説明を受ける。 畳へのあがり方、点前の進み方、お茶の飲み方などだ。 皆真剣に聞きいっている。顔ぶれは色々。 おじいさんも年配の女性も若いジーンズ姿の男女もいる。 当然全員茶道初体験だ!なんだか私もわくわくしてきた。

さて、説明も終り、お客さんが店内に入ってきた。 全員緊張しているのが見ただけでわかる。 店内でもデイーターさんの説明は続く。
「はい、そこは右足から入って下さい。 おっと、そこでお辞儀をして!」
みんなまるでロボットのようだ。ギクシャクギクシャク。
「はい、そこで左に回って!(左を向いての意)」
すると中年女性のそのお客さんは、その場でぐるぐる回転しだしてしまった。 緊張のあまり普通の判断ができなかったのだろう・・・

皆が無事席についたら、本日の主役・赤い着物をまとったたこの登場である。 ジャカジャーン!赤い振り袖というのは派手すぎて茶道の精神に合わないが、 ほかに着物もなく、お客さんの期待(着物を見たいという) を裏切る方が一期一会の精神に合わないだろう、 とむりやり自分を納得させたのだ。
扇子を前に置き、両手をついて、
「正客様、本日はお忙しいところをおいでいただき、ありがとうございます。」
と日本語で挨拶する。挨拶された方はびっくりしてしまって、 私の真似をして手をつき、やたら頭をさげて、
「Ah,コニチワ」
次客以下にも同じように挨拶をし、張り詰めた空気の中で点前をはじめた。 一言もしゃべるものはいない。お釜のお湯のしゅんしゅんと沸く音だけが、 あたりを支配している。茶筅とうじが始まると、 K子さんがお菓子をもってきた。栗蒸し羊羹だ。 しかしお客さんは誰一人手をつけようとしない。 食べていいのかどうか戸惑っているようだ。しかし私としては、 お茶を点て終わるまでに食べてほしい。手を止めてドイツ語で話し掛けてみた。
「食べてくださっていいんですよ。それにもっと楽にしてください。 足を崩しても良いし、おしゃべりをしてくださってもいいんですよ。」
私がいきなりドイツ語をしゃべったのでみんなかなりびっくりしたようだが、 ホッとしたようにみんな足を崩し、その場の雰囲気が和らいだ。 栗蒸し羊羹を食べた感想は、「マジパンと似た味ですね」(そうかぁ???)。 さてさて、お茶も点ておわり、正客の男の子の前に差し出してお辞儀をすると、 相手もあわてて居住まいを正してお辞儀。さあ、やってまいりました! 緊張の一瞬!!!待ち合いで習った作法を反芻しているらしく、 視線は上を向いて一人でうなずいている。1回、2回と茶碗を回し、 ゴックリ。私は彼が苦い抹茶にどんな反応をするか興味津々である。 彼は絶対緑茶が出てくるものと思っていたに違いないのだ! しかし彼は戸惑うことなく全てを飲み干し(まあ、薄めにしといたからね)、 「おいしい!」。結構以外だなあ。

てな具合にお茶会は進み、皆様に、
「Wunderschoen!(=すんばらしい!)」
と好評いただいたのである。大成功だ!!!

私は無事アルバイト料をもらい(いくらかって?それはひ・み・つ!)、 正座のし過ぎでくたくたになった足を引き摺って帰路についた。 そのころ成功に気をよくしたK子さんの心には、 さらに大きな野望が芽生えていたのだ・・・ けどそれはまた今度。








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